マンションの修繕費問題、ドローンが救う納得の理由とは?

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新宿

ドローン(小型無人機)を利用した物流、測量などのサービス市場で、今後の需要拡大が最も期待されているのが「点検」分野です。今後5年間で5倍以上の拡大が予測されている同市場で、点検が全体の約4割を占めると見込まれています(インプレス総研調べ)。
その背景には、マンションなどの建築物や橋梁やトンネルなどインフラの高経年化が進む一方で気候変動による台風大型化や大規模な地震などの災害リスクが高まっていることです。
加えて、既存ストックの有効活用の観点から2000年代に入って建築物やインフラの安全管理のために点検の義務化など規制が強化されていることがあります。ドローンなどのデジタル技術を活用して、既存ストックの点検・維持管理の効率化をどう進めていくのか、ドローン点検の本格普及で社会問題化しているマンション修繕費用の削減につながることも期待できます。

きっかけの1つに「仮面女子」猪狩ともか氏の事故

アイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともか氏が、今年3月に国を相手取って損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。2018年に国史跡の敷地内に設置された看板が春の強風で倒れ、下敷きになって車いす生活になってしまったためです。
看板を管理していた団体との和解は成立しているが、ユーチューブにアップした動画で猪狩氏は国を提訴した思いを次のように語っています。
「今回、私が声を上げることで、今後、公の建物や看板の管理が行き届き、私のように突然の事故で命や体の自由を奪われる人がいなくなるようにと思い、提訴しました」
単に管理者である行政の責任だけでなく、既存ストックの安全管理行政に対する国の責任も問うているのでしょう。  
では、国の安全管理行政の実態はどうなっているのでしょうか。
猪狩氏が被害を受けた看板のような屋外広告物は、国土交通省都市局が所管する「屋外広告物法」に基づいて、地方自治体が条例によって設置と安全管理を行うことが定められています。

2004年に制定された屋外広告物条例ガイドラインでは、広告物の許可期間は3年を超えることはできないとされており、2016年のガイドライン一部改正で、許可の更新申請のときに広告物の劣化や損傷などの点検結果の報告を義務付け、新たに「屋外広告物の安全点検に関する指針(案)」を作成しました。今回の事故も、安全点検への対応を怠ったことが原因の可能性があります。
2000年4月時点で、許可対象の屋外広告物は約29万3000件(電柱の貼り広告も含む)で、うち点検対象となっている割合は約94%。47都道府県と148市町村の地方公共団体が安全点検報告書の提出を義務付けており、未提出で許可が更新されないまま表示を続けると罰則の適用もあるといいます。
国土交通省に報告があった事故件数は、2018年55件、2019年34件、2020年25件と減少傾向も見られるが、台風の大型化に対応した安全管理対策も必要となるでしょう。

大きな事故が発生するたびに規制強化されているが・・・

2008年には、外壁からのタイル剥落事故などがたびたび発生したため、3年ごとの目視調査に加えて、竣工・外壁改修から10年を過ぎた最初の調査で、人間が壁を点検棒で叩いて音で診断する「全面打診」などによる調査が義務づけられました。
定期報告の実態は国交省のホームページで情報公開されていないが、所管する住宅局建築指導課によると、2018年度の集計で特定建築物に指定されている数は約28万8000棟。
主な内訳は、オフィスビルが約1万4000棟で報告率が87%。マンションなどの共同住宅が約11万4000棟で74%、旅館・ホテルが約2万6000棟で56%となっています。
「報告率は60%台で推移してきたが、ここにきて徐々に上がってきている」(住宅局担当者)状況ではある。しかし、3割近い特定建築物が定期報告を実施していないわけで、報告率100%の達成にはほど遠いです。

負担が大きい高所における点検や管理組合の資金不足が問題

特定建築物の定期報告や屋外広告物の安全点検で負担になっているのが、高所における点検作業です。
目視点検では、地上から双眼鏡などを使った判定を国や特定行政庁でも認めていますが、実際に点検業務を行っている複数の企業に確認すると「高層ビルの上層部分の判定は現実問題として困難だ」といいます。
問題は10年ごとに義務付けられた「全面打診」による調査です。3年ごとの点検は双眼鏡による目視で対応しても、人間が全面打診を行う場合は高所作業車、仮設足場、ゴンドラなどの設置が必須となります。
このコスト負担を軽減するために壁面を移動して打診検査を行うロボットの開発も進んでいるが、導入は進んでいません。マンションでは、これまで12年周期での大規模修繕工事が推奨されてきました。
国土交通省でも竣工後10年を経て3年以内に外壁修繕を行う場合には、全面打診を工事に合わせて行うことで免除していました。

しかし、建物の老朽化と居住者の高齢化という「2つの老い」が社会問題化するマンションでは工事資金不足に陥る管理組合も増えており、その打開策として大規模修繕の周期を延長するニーズが高まっています。この時に問題となるのが定期報告です。大規模修繕の周期を13年超に延長する場合の対応を国交省に確認すると「10年をめどに全面打診などの調査が必要になる」(住宅局)との見解を示しています。
2021年2月にマンション管理大手の東急コミュニティーが大規模修繕の周期を12年から最大18年に延長する工事パッケージの販売を開始しました。「仮設足場を設置して全面打診を実施する定期報告の費用を加えると、18年周期に延長するコストメリットが得られないマンションも出てくる」(同社担当者)と懸念されます。

トンネル事故をきっかけに道路法も改正、点検強化でドローンの登場!

2012年の笹子トンネル天井板崩落事故のあと、政府はインフラ長寿命化基本計画を策定しました。道路法を改正し2014年度から5年ごとに橋梁、トンネル、道路附属物などの点検を義務付けています。
定期的な点検・診断を実施し、適切なタイミングで必要な対策を講じることで長寿命化を図り、インフラ投資のトータルコストを削減するのが狙いです。これを機に、橋梁などのインフラ分野ではドローン点検の導入が進み出しました。
建築分野でもドローン点検の取り組みは始まっているが、本格導入には至っていません。3年ごとの目視検査は双眼鏡などを使った調査が認められているため、費用を払ってまでドローン点検を実施する特定建築物の所有者・管理者が少ないこと、全面打診に代替する方法として2008年に導入された赤外線設置法がドローンからの撮影では十分な精度が確保できないとして認められていなかったからです。
しかし、今年6月に閣議決定した政府の成長戦略実行計画で「外壁調査を行う赤外線装置を搭載したドローンについて(中略)制度改正を行い、来年度以降、建築物の定期検査における外壁調査で使用可能とする」ことが盛り込まれた。国土交通省でも「ガイドラインを策定して来年度には示したい」(建築指導課)と、本格導入に向けて準備を開始しました。

国が赤外線ドローン点検を承認するかが今後のカギ

東日本大震災を体験してドローンの外壁点検サービスを提供しようと2016年に起業したスカイエステートの青木達也社長は、「すでに東京都など一部の自治体では赤外線のドローン点検を認めていたが、国が正式に認めれば需要は一気に拡大する」と期待しています。
同社にはサンフロンティア不動産に続き、今年5月に日鉄興和不動産が出資し、ドローン点検の本格導入に向けた検証を進めています。これまでにマンションやオフィスビルなど300棟近い建物でドローン点検を実施していますが、まだ実績が少ないのが課題です。
「施工会社による外壁保証は通常は6年程度なので、国や自治体の基準より多い頻度での調査が必要となります。
しかし、従来の方法ではコストも手間もかかり機動的ではありません。より安全な建物管理を実現するためも、ドローン点検の効果を検証し、点検精度の向上を図る必要がある」(日鉄興和不動産経営企画本部経営企画部長・稲垣修氏)

セブン-イレブン・ジャパン、出光興産、日産自動車、日本マクドナルドなど多くの企業に建物の点検・維持管理サービスを提供しているJMでも、今年4月からドローン点検サービスを開始しました。高精細な動画・写真をドローンで撮影し、20年以上にわたって点検業務を行ってきた技術者の診断をパッケージ化して低価格化を図りました。
「建物点検で重要なのは、破損や故障などが発生する“予兆”を見逃さないことです。定期報告だけでなく、大きな地震や台風などのあとにもドローンを飛ばして気になる箇所を点検し、必要な対策を講じることが、結果的にライフサイクルコストの削減につながる」(JM社長・大竹弘孝氏)
従来の目視や全面打診による点検は劣化部分を検出するのが主目的で、建物の劣化状況を数値データとして蓄積するのが難しいとされています。ドローン点検であれば建物の全体を赤外線や高精細な画像データにして蓄積できます。
これらのデータを機械学習などのAIを使って解析することで点検精度の向上につなげられます。

赤外線ドローン点検に変更すると費用はどうなるのか?

JMの試算によると、建築面積1200平方メートル高さ24メートルの7階建て規模のマンションに、仮設足場を設置して目視点検するだけで費用は880万円程度かかるが、画像撮影によるドローン点検であれば18万円程度で済みます。
もし3、6、9年目の定期報告を目視からドローン点検に替え、12年目は全面打診に替えて赤外線のドローン点検を利用する場合、赤外線検査料は別途サービス提供企業から見積もりを取る必要があるが、定期報告の費用は「72万円+赤外線検査料」となる計算です。  マンションも物件ごとに劣化状況が異なるので、大規模修繕工事の周期を一律に伸ばすことはできません。
ドローン点検で蓄積された画像データなどを見ながら、大規模修繕工事を延長できるかどうかを判断するのが合理的な方法でしょう。すでにマンションの修繕費用の見積もりに赤外線の画像データを活用する動きも出てきています。
大規模修繕のときに仮設足場を設置して全面打診を行って外壁タイルの張替えを行うと、当初見込みより劣化が進んでいて予算オーバーする懸念があります。
「施工業者の見積もりを取る前に工事予算を事前に把握したいので、管理組合から赤外線のドローン点検を依頼されるケースも出てきた」(スカイエステート・青木社長)既存ストックを効率的に維持管理するためには、3次元設計システムのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やドローンなどのデジタルデータの活用は欠かせません。 安全で災害に強い都市環境を実現するためにも、これまで人手に頼ってきた点検・維持管理のDX(デジタル・トランスフォーメーション)に積極的に取り組む必要があるでしょう。

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