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視界は良好? 大阪万博でいよいよ「空飛ぶクルマ」がテイクオフ

ドイツの新興企業ボロコプター(VOLOCOPTER)の「空飛ぶクルマ」ボロシティ(VOLOCITY)は2つのシートと18枚の回転翼を備えています。日本航空は大阪・関西万博を見据えて同社から合計100機もの購入を決定しました。(出所:VOLOCOPTERのウェブサイトより)
(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院客員教授)

関西国際空港から会場の夢洲(ゆめしま)まで空路を快適にひとっ飛び──2025年の大阪・関西万博では「空飛ぶクルマ」によるエアタクシーのサービスが話題の中心になりそうです。
「空飛ぶクルマ」とは「電動・垂直・離着陸機」のことで、「eVTOL」(イーブイトール:Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)とも称されています。人間が搭乗可能な大型ドローンをイメージすればわかりやすいです。
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エアライン各社も「空飛ぶクルマ」に注目

「日本経済新聞」の報道によると、経済産業省と国土交通省が2022年3月18日開催した「空の移動革命に向けた官民協議会」において、大阪・関西万博で導入される「空飛ぶクルマ」の具体的な運行計画が明らかにされました。
(参考)「空飛ぶクルマ、大阪万博で8路線・1時間20便 初の実用化」(日本経済新聞)

万博会場である人工島・夢洲と周辺の空港や大阪市内などを結ぶ8つの路線(注1)を候補とし、1時間20便程度の運行を目指しています。2地点間での人の輸送や周辺での遊覧飛行が念頭に置かれています。

(注1)夢洲を起点とする8つの路線とは、(1)大阪市内、(2)大阪湾岸部、(3)伊丹空港、(4)神戸空港、(5)関西国際空港、(6)神戸市内、(7)淡路島、(8)京都・伊勢志摩

また2022年度中にも「空飛ぶクルマ」の機体メーカーのほか、運行や離着陸場の運営を担う事業者を選定します。機体開発や運航は1社ではなく、複数の会社に発注する方針です。具体的な運航路線や運賃などは、事業者が万博の運営主体である日本国際博覧会協会と協議した上で決めていきます。

機体メーカーですでに参入が確定しているのは、日本のスタートアップで、愛知県豊田市に本社とテストフィールドを構える「スカイドライブ(SkyDrive)」です。同社は2021年9月に大阪・関西万博でのエアタクシーサービス提供に向けて大阪府・大阪市と連携協定を締結し、2025年に向けて「空飛ぶクルマ」の新型機SD-05の開発を進めています。好天の条件下であれば飛行時間は10~20分で10キロメートル前後の飛行が可能といいます。

また、日本国内のエアライン各社も次世代の交通手段として「空飛ぶクルマ」に注目しています。
日本航空(JAL)はドイツの新興企業、ボロコプター(VOLOCOPTER)から「空飛ぶクルマ」2機種、合計100機の購入を決定しました(冒頭の写真)。2023年にも日本国内で公開試験飛行を行う運びです。

ANAホールディングスも米国のスタートアップ、ジョビー・アビエーション(Joby Aviation)(注2)と日本での運行サービスの検討を始める覚書を結びました。
(注2)ジョビー・アビエーションにはトヨタが出資しているほか、量産に向けた技術的な支援も行っています。

「空飛ぶクルマ」によるエアタクシーサービスが実現すると、既存の地上の交通インフラなら20~40分かかっていた場所へ5~10分の短時間で行けるようになります。しかも動力は電気モーターなので(ヘリコプターに比べ)静粛性にも優れ、CO2も排出しません。まさに都市交通のゲームチェンジャーとなりえます。

万博に向けて存在感を増すスカイドライブ

「空の移動革命に向けた官民協議会」の活動を踏まえた上で、大阪府が主体となって2020年11月に「空の移動革命実装 大阪ラウンドテーブル」(以下「大阪ラウンドテーブル」)が設立されました。目的は、大阪・関西万博での「空飛ぶクルマ」の実現を加速させることです。

そして大阪ラウンドテーブル設立当初から参画し、大阪府・大阪市と連携協定を結んで今後の取り組みの工程表にあたる「空の移動革命社会実装に向けた大阪版ロードマップ」(以下、大阪ロードマップ)の策定に向けて中核的な役割を果たしているのがスカイドライブです。

スカイドライブ代表取締役CEOの福澤知浩は東大工学部卒業後、トヨタに勤務しながら「革新的なクルマを作りたい」という想いで2012年に有志団体のカーティベーター(CARTIVATOR)を設立、トヨタを退職した翌年の2018年にスカイドライブを起業しました。2020年8月には「空飛ぶクルマ」のプロトタイプ「SD-03」で4分間の公開有人飛行試験に成功、ほぼ同時期までに累計51億円の資金調達にも成功しました。

また三菱航空機でチーフエンジニア、副社長を歴任した岸信夫が技術最高責任者(CTO)として加わるなど、技術開発人材の確保にも注力しました。

さらにスカイドライブは2021年10月、国土交通省に「空飛ぶクルマ」の型式証明を申請して受理されています。型式証明は航空法に基づいて安全基準・環境基準を満たしているかどうかを国土交通省が審査するもので、現時点でeVTOLメーカーの中で申請が受理されたのは同社のみです。

CES 2022の「ユーレカパーク」に出展したスカイドライブ。2020年、日本で初めて公開有人飛行試験を成功させた「空飛ぶクルマ」のプロトタイプ「SD-03」を展示し注目を集めました。(筆者撮影)

2022年3月には「空飛ぶクルマ」の本格的な事業展開を見据え、スカイドライブはスズキとの連携協定を締結しました。小型車の製造と販売に圧倒的な知見・ノウハウを持つスズキとの協業は「量産化」というハードルを乗り越えるための大きな一歩となるでしょう。

代表取締役CEOの福澤知浩氏は自社の未来について、「燃費の良さと使いやすさで世界の自動車市場を席巻した日本メーカーのような存在になりたい」と語っています。

eVTOLのメーカーは世界で400社以上あるとも言われ、開発競争はすでに熾烈です。

米国や中国の後塵を拝することになったドローンや電気自動車の二の舞にならないよう、日本の官民が一体となって明確なロードマップを描いていきます。そして大阪・関西万博での成功で弾みをつけて「空飛ぶクルマ」による空の移動革命を安全かつ確実に社会実装していくことが大切です。その意味でも日本国内のフロントランナーであるスカイドライブの役割は極めて大きいと言えます。

空の移動革命には「離着陸場」「官制・通信」なども必要

空の移動革命には「空飛ぶクルマ」による「機体・運行サービス」に加えて「離着陸場」の整備、「官制・通信」の技術やインフラ整備なども必要になります。大阪ラウンドテーブルでスカイドライブと連携する大林組、関西電力、近鉄グループホールディングス、東京海上日動火災は戦略的に重要な共創パートナーです。

例えば、関西電力は「空飛ぶクルマ」のバッテリー充電拠点の整備、大林組は離着陸場の建設、近鉄は観光事業における「空飛ぶクルマ」の利活用、東京海上日動火災はエアタクシーサービスに関わる保険の開発を担う予定となっています。

(参考)「【特集】2025年大阪・関西万博で実現?人が乗ってテストも!?『空飛ぶクルマ』は今」(読売テレビニュース)

上記の企業以外でも駐車場やカーシェアサービスを展開するパーク24が2022年5月、欧州で離着陸拠点を開発・運営する英スカイポーツ、兼松、あいおいニッセイ同和損害保険と連携の覚書を交わしたことが報道されました。2025年の大阪・関西万博での「空飛ぶクルマ」運行開始を見据えて、パーク24は自社の運営する駐車場の敷地内に「空飛ぶクルマ」の離着陸場を整備するとともに、自社のカーシェアサービス車両を配置し、搭乗前後の乗り継ぎ需要の取り込みを狙っているとされています。

「官制・通信」については、課題はより大きいです、「大阪版ロードマップ」(下の図参照)の中にも明確に示されているように、大阪・関西万博では「空飛ぶクルマ」はパイロット搭乗・定期路線運行(いわばプラレールに近い)というオペレーションとなります。しかし2030年ごろを境に自動・自律飛行(パイロットレス)がデフォルトとなり、「空飛ぶクルマ」の数自体も飛躍的に増えてオンデマンド運行へ段階的に移行していくことが想定され、そうなるとSF映画で描かれる「無数の空飛ぶクルマが上空を飛び回る社会」の実現に近づくことになります。

空の移動革命社会実装に向けた大阪版ロードマップ(出所:大阪府のウェブサイト

しかし、大量の「空飛ぶクルマ」を迅速かつ安全に官制するのは容易ではありません。地上を走るクルマとは異なり、「空飛ぶクルマ」は進む方向だけでなく飛行高度も自由に変えられるため、ルートの組み合わせは無限大になります。上空で通信の電波が確実に届くか、飛行の支障になるような気象変動はないか、桁違いの計算が瞬時に必要とされるので、こうなると量子コンピュータ技術の実装や3次元交通官制システムの導入がセットで必要になってきます。

「空飛ぶクルマ」によるエアタクシーサービスは、機体を運用するための「イノベーション共創プラットフォーム」(自治体や多様な企業による)が成立して初めて実現が可能になるのです。

大阪万博(1970年)でのワイヤレステレホン体験の思い出

大阪・関西万博では限られた条件下とはいえ、「空飛ぶクルマ」によるエアタクシーサービスはほぼ確実に実現します。それでは結局のところ、このサービスが「大阪版ロードマップ」に描かれているように日常に溶け込むモビリティになり、多様な「空飛ぶクルマ」の運航を支える仕組みとして大阪の産業経済が発展するかどうかについては「社会受容性」が大きな鍵になるのでは、と筆者は考えています。

「社会的受容性」とは単に人々の認知や理解を得るだけではなく、夢や想像力をかき立てる感動体験だったり、災害発生時など緊急時にも役立ったりする存在、という意味です。「大阪ラウンドテーブル」でも重要テーマのひとつとして「空飛ぶクルマ」のハード面(機体開発や離着陸場の整備)だけでなく、ソフト面である「社会的受容性」についての議論や取り組みが行われていることは、それ自体素晴らしいことだと思います。

筆者が大阪・関西万博の「空飛ぶクルマ」について情報収集している際にふと思い出したことがあります。1970年の大阪万博の電気通信館(日本電信電話公社、現在のNTT)のワイヤレステレホン(携帯電話)体験です。

クリーム色で固定電話の受話器の形をした、無骨なデザインではあったが、この未来の電話機を使って会場から日本国内への通話や会場内の端末同士の会話ができました。「月の石」や「動く歩道」と並んで、たちまち大阪万博の目玉コンテンツとなり、大阪万博の期間中に約65万人がワイヤレステレホンの通話を体験したと言われています。

それから30年以上経って携帯電話サービスが社会を支える産業として発展し、人々の生活を潤しました。先般のような通信障害が発生すれば、我々の日常生活がどれだけ携帯電話サービスに依存しているか思い知らされることになります。またこのサービスは多くの企業に事業収益の拡大や雇用機会の創出をもたらす一方で、気象予報などの公共サービス、災害時の救急搬送や離島や中山間地域とのライフラインとしても定着していることは語るまでもないでしょう。

「大阪版ロードマップ」を絵に描いた餅に終わらせないために・・・。「空飛ぶクルマ」には1970年の大阪万博で夢のワイヤレステレホンが歩んだビクトリーロードをぜひ突き進んでほしいものです。

朝岡 崇史

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