
千葉県白子町で開催された国際大会「ワールドデフトリプルSゲームズ2025(WDTSG2025)」の一環として行われた「メローカップ世界デフサーフィンチャンピオンシップ」で、聴覚障がいアスリートの安全確保を目的としたドローン巡視・避難誘導システムが実運用された。取り組みを主導したのは、東京都渋谷区に本社を置くドローン専門企業・株式会社TRIPLE7と、その運営するNAPAドローンアカデミーである。
音に頼らない防災の挑戦
従来、海上競技の安全管理はサイレンや防災無線、拡声器など「音」に依存してきた。しかし、今回の大会参加者は全員が聴覚障がい者。危険信号が届かないという課題から、視覚ベースの防災手段の確立が急務とされていた。大会当日は風速約5mの強風が吹き、選手が競技エリア外へ流される場面も多発。広域かつ即時に視覚的な安全管理を行う必要性が浮き彫りとなった。

避難誘導ドローンの実運用概要
運用にはDJI製「Matrice 4TD」が使用され、AIによる人物検知機能や高光量ライト(赤色)、スピーカーを搭載。特にライトは非常時の視認性を高めるため白色から赤色へカスタムされ、音が届かない環境でも危険を直感的に伝えられる仕様となった。 5名のパイロットが補助者とペアを組み、交代で約15分のフライトを実施。NAPA独自のマニュアルに基づく「2人1組体制」で安全運航を徹底した。

自治体・警察・レスキューが連携
運用は白子町役場、茂原警察署、レスキュー団体J-PROの協力を得て実施。海上と陸上の両面で安全確保の精度が高まったという。飛行前点検はNAPA認定インストラクターが担当し、全国の自治体や企業に提供可能な安全管理体制のモデルケースとなった。

選手と関係者が語る現場の声
- 「赤いライトは非常に見やすく、直感的に注意喚起できた」(選手)
- 「上空から見守られている安心感が大きい」(選手)
- 「音に頼らない避難誘導の有効性を実感した」(自治体担当者)
こうした評価から、“誰も取り残さない防災”の実現に向けた有効性が確認された。
見えてきた成果と課題
成果
- 赤色ライトによる高い認知性
- 強風下でも安定した巡視
- AI人物検知によるエリア逸脱監視の有効性
課題
- 天候や逆光による視認性の変動
- 陸上誘導と空中誘導の役割分担
- 避難サインの統一と事前説明の徹底

広がる応用可能性
今回の実証により、海辺での「視覚型防災インフラ」としてドローンの有効性が示された。
応用範囲は聴覚障がい者の安全確保にとどまらず、
- 海水浴場での防災巡視
- マリンスポーツ大会の安全管理
- 河川敷や湖畔イベントでの活用
- 防犯パトロールや迷子捜索、見守り支援
など多岐にわたる。TRIPLE7とNAPAは、ろう者を含む多様なパイロットと協働するインクルーシブな運用モデルの創出も視野に入れている。











